家族会議

質の良い睡眠を取れていたのか、寝覚めの良い朝を迎えることが出来た。

ここまで眠れたのは、疲れていたからだけではない。

今日はあの悪夢にうなされることがなかったのだ。

恐らく、圭吾が帰ってきたことによって不安定だった精神状態が落ち着いたのだろう。

窓の外を見ると、昨日の雨が嘘のように雲一つない青空が広がっている。

そのおかげか、窓から差し込む日差しはいつも以上に熱を持っていた。

今日は、如月家の家族会議の日だった。

両親はいつ圭吾が見つかるか目処をつけられなかったため、しばらく休みを確保していたらしい。

結果、こうして家族全員が揃うことが出来た。

そして、明日からは通常通りの生活に戻るとのことだった。

 

「圭吾はどうして家出をしたの? 怒らないからちゃんと理由を聞かせて欲しいわ」

あんなことがあったからだろう、母はひどく気を遣ってるように見える。

それがどのような効果をもたらすか予測不能だったが、一応は見守り続けた。

「自分の居場所がなかったから。兄さんにも話したけど、僕はただ仲良くして欲しかっただけなんだ。勉強を頑張ってたのだって、そのための手段に過ぎなかった」

両親は黙って話を聞いている。

どうやら、このままでも問題は無いようだ。

因みに、綾乃は自室で待機していて今この場にはいない。

会議のことを話したら「いってらっしゃい」とだけ言った。

今は何をしているのだろうか。

圭吾の話を聞きつつも、悠介は綾乃の動向が気になっていた。

「でも、家の中の空気はどんどん変になって、ますます居心地が悪くなっていった。それに、僕の成績が落ちてから母さんたちはすごく気にしてるようだった。僕自身、その頃には何のために頑張ってるのか分からなくなってたんだ。……そしたら、全て投げ出したくなった」

話してることは昨日とほとんど同じ内容だ。

一つだけ違うとしたら、それは悠介との関係のことだった。

しかし、そのことは昨日解決していた。

個人的な問題だったため、それまで話す必要は無いと判断したのだろう。

「そうだったのね……。私たちは知らない内に圭吾に負担をかけていたのね。ごめんなさい」

「僕こそ迷惑かけてごめんなさい。ちゃんと話そうとすればこんなことにはならなかったのに……」

圭吾と母は頭を下げ続けている。

悠介と父は、それを上から眺めるような構図になっていた。

「俺から言うのも変かもしれないけどさ。もう、圭吾に過剰な期待をするのは止めてやってくれないか? 圭吾はずっと俺たちのために頑張ってきたんだ。これ以上、こいつに色々背負わせたくない」

そう言って、悠介は圭吾の頭を優しく撫でる。

まるで女の子のようなサラサラな髪で、少なからずその触り心地に驚いた。

きっと、本人から言うより第三者を通した方が伝えやすいことはあるだろう。

圭吾にとって、自分に向けられた期待を自ら引き剥がすというのは酷な話だ。

過剰なそれは、時に苦しみを生む。

もちろん、それが全くないというのも考えものだ。

何事もバランスが重要なのだ。

今回の件を通して、悠介はそれをひしひしと実感していた。

「……あと、俺も今まで色々と悪かったよ。いつも機嫌悪くて、当たり散らすことも多かった。雰囲気悪くして、嫌な思いもたくさんさせたと思う。……だから、ごめん」

父はテーブルに置かれたお茶を飲み、母はこちらをじっと見つめている。

そして、圭吾はどこか満足したような表情を浮かべていた。

「それと、さ。これからは圭吾ばかりじゃなくて、俺のことも見て欲しいって思う。それでもって、もっと頼りにしてくれたら嬉しい。俺は、今まで圭吾と比較されて悔しかった。情けなかった。圭吾がすごいってことはよく分かってる。だけど、それを受け入れられない自分もいたんだ。だから、あんな態度を取るしかなかった。……でも、これからはちゃんと成長するように頑張るから」

一言一言を確実に、そして力強く放っていく。

いつにない真剣な様子が伝わったのか、誰一人として悠介の決意を笑うことはなかった。

「……私は無意識にあなたたちに優劣をつけてしまっていたのね。そして、二人ともそのせいで苦しめられていた。本当に、母親失格ね……」

母は涙を浮かべていた。

拭われることのないそれはゆっくりと頰をなぞり、やがてポツリと床を濡らす。

「私もすまなかった」

父はいつもの硬い表情を浮かべながらそう言った。

父から謝罪されることは滅多になかったため、妙に気持ちがソワソワする。

「ま、まぁ、俺も圭吾も思ってたこと伝えられたし、この辺で終わりにしとく?」

「……そうだな」

話が一段落したと判断したのか、母の様子を見たからなのか、父は提案に賛同してくれた。

「それなら、僕は部屋に戻るね」

もしかしたら、遅れた分を取り戻すために勉強するのかもしれない。

こういうことを当たり前にこなせる圭吾は、やはり努力家だ。

だけど、こんな時くらい息抜きすればいいのにと思う。

「じゃあ、俺もーー」

「悠介は少し待ちなさい」

圭吾に続いて退散しようとすると、父に呼び止められた。

「……なんだよ。まだ何かあるの?」

「これから私と一緒に出かけなさい」

「それ、もう決定事項なの?」

そう尋ねても、父は何も言わない。

相変わらず口数が少なく、何を考えているか全く読めない。

仕方ないな、と心の中で呟きながら悠介は深く溜息をついた。

 

前回→香り

続き→両親の想い

目次→めぐりめぐるその日まで

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