膨れ上がる疑問

美月が飲み物を買いに出かけ、僕と紺野さんが部屋に取り残された。

特にすることも無かったので、部屋の内装をボーッと見ていた。

そんな中、不意に彼女は話しかけてきた。

「秋山君」

「ん?どうしたの?」

「あの、美月さんの話。どう思いますか……?」

「それって、秋月麗奈さんとの話?」

「そうです」

「どうって言われても、麗奈さんのお母さんの言ってた通りなんじゃないかと思うけど……」

「確かに、あの話は紛れも無い事実だと思います。……ですが、何か引っかかるんですよね」

「引っかかるって、何が?」

「私も上手く説明は出来ないんですけど、なんていうか変だとは思いませんか?」

「変?」

「ええ。あれだけ核心的な話を聞いたはずなのに、美月さんは記憶を思い出す気配が一向にない。それに、麗奈さんのことを“初めて知った”かのような反応でした」

「記憶が無いんだから、“初めて知った”ような反応でもおかしくないんじゃないの?」

「それは、そうなんですけど。なんて説明すればいいんでしょうか……」

しばらく悩んでいたが、切り口を変えて、再び彼女は話し始めた。

「もう一つ気になってることが、美月さんの記憶が無くなった原因が分からないということです」

……言われてみればそうだった。

秋月さんの話は事実なはずだ。

写真からもそれは証明されている。

しかし、記憶が無くなった理由は未だに分からないままだった。

「……美月の記憶が無くなったのは、いじめを一緒に耐えていた麗奈さんが自殺してしまったから……?」

「私もそれは考えてました。でも、それは違うと思います」

「どうしてそう思うの?」

「理由は二つあります。まず一つ目に、それが原因なら秋月さんから美月さんにそう伝えるはずです。でも、あの人はそうしなかった」

「確かに。じゃあ、本当は何か隠してるとか……?」

「いえ、それは考えづらいです。私から見ても何かを隠してるようには見えませんでしたし、あそこまで話しておいて記憶に関することだけ隠すのは不自然です。そもそも、記憶を取り戻させたくないなら最初から麗奈さんの話だってしないはずじゃないですか?」

「じゃあ、秋月さんは美月の記憶が無くなった理由までは知らなかった……?」

「恐らくそうだと思います」

「でも、美月が記憶の話をした時にあまり驚いていなかった。それこそ、記憶が無いのを“初めから知っている”かのようだった」

「それはきっと、美月さんの記憶が無くなったのは麗奈さんが自殺したからだと認識していたからだと思います」

「えっ……?じゃあ、やっぱり美月の記憶が無くなったのはそれが原因ってこと?」

「それは違います。……今からお話しする二つ目の理由がそれです」

喋り倒しで疲れたのだろう。

紺野さんは、一度呼吸を整えてから話し始めた。

「先ほども話した通り、美月さんは記憶を取り戻してないんですよ」

その言葉の意味がしばらく理解できなかったが、冷静に考えてみると、彼女が何を言おうとしているのかが分かった。

「美月さんの記憶が無くなった原因が本当に麗奈さんの自殺なら、あの話を聞いた時点で思い出してるはずなんです。でも、思い出すどころか全く反応を示さなかった……」

「……つまり、記憶を無くした理由は別にあるってこと?」

「……私は、そう考えています」

「でも、あれが理由じゃないんじゃ一体何が原因で……」

「そこまでは分からないです。ただーー」

「ただいまーっ!」

紺野さんが何か言おうとしてたところで、美月が勢いよく扉を開けて室内に入って来た。

話に夢中で油断していた僕たちは、その音に驚いてしまった。

「……どうしたの?」

「……いえ、何でもないです」

「あー。二人っきりになったからっていかがわしいことしてたんでしょ〜?」

「違いますよ」

いつも通りの小悪魔モードで紺野さんをからかったが、反応が違かったのか、美月は不思議そうにしていた。

紺野さんもモヤモヤしていてそれどころじゃなかったのだろう。

「本当に何も無いから大丈夫だよ。飲み物ありがとね」

そう言って、美月の気をそらした。

「あっ……うん」

僕は、気になってたことをそれとなく聞いてみた。

恐らく、紺野さんも気にしているであろうことだ。

「美月、さ。何か思い出せたりしたかな?」

ストレートに聞くのが怖くて、変な質問の仕方になってしまった。

「うーん。特にそういったことはないかなー……でも写真見せてもらったし、私がここに住んでたのは間違いないんだよねっ!」

そう言って、彼女は明るく振る舞った。

そこで、僕の携帯から着信音が鳴った。

見覚えのある電話番号を見て、僕は誰からかすぐに察した。

「ごめん。ちょっと電話してくる」

「はいよー」

美月と入れ替わるように、今度は僕が部屋を出て行った。

 

「もしもし」

「おっ、秋山か?今大丈夫か?」

「ええ、大丈夫ですよ。ごめんなさい、すっかり報告のこと忘れてました……」

「いいってことよ。それで、何か分かったか?」

「分かったといえば分かりました。でも、分からないといえば分からないです……」

「ハッキリしないやつだなー」

「……美月の過去について知ってる人がいて、その人から話を聞きました。でも、記憶が無くなった原因までは分からなかったみたいです」

「そうか。……今はまだ帰ってきてないのか?」

「そうですね。明日帰る予定です」

「おう、気を付けて帰って来い」

「ありがとうございます。……あの、要件ってそれだけですか?」

「……いや。あるにはあるんだが、話すのは少し気が引けてな」

「もったいぶらないで話してくださいよ」

「詳しいことは言えん。ただ……」

「ただ……?」

電話越しで、先生がどう伝えるべきか悩んでいる様子が見て取れた。

そして、丁度良い言葉が見つかったのか、急に話し始めた。

「気を強く持てよ、秋山。篠原を支えてやれるのはお前ら二人だけだ」

「……それって、どういう意味ですか?」

「篠原に何があっても、覚悟しておけということだ」

「……今更何なんですか?」

「あれからまた色々調べて、俺は一つの結論に辿り着いたんだ」

その言葉に、僕は心底驚いてしまった。

「もしかして、美月の記憶が無くなった原因が分かったんですか!?」

「いや、残念ながらそこは俺にも分からない」

「じゃあ、何が分かったんですか?」

「すまないが、俺の口からは言えん。まだ確信が持てないからな。それに、俺から話すべきではないと思う」

「そんな……」

「もし気になるなら自分たちで考えてみろ。それがお前たちのためでもある」

「……分かりました」

そう言って電話を切り、この日の報告会は終わった。

 

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