秘密の場所

休みの日は一人で過ごしたり、軽く散歩をしたり、ショッピングをしたりする。

つまりは、その時の気分で行動を変えるのだ。

高校に入って帰宅部として活動してるのは、この自由が欲しかったというのが大きい。

中学の時は部活一筋で、あまり自分の時間が無かったのだ。

もちろん部活は本気だったし、楽しかったので充実していた時間ではあったのだが……

まあ、そんなこんなで高校からは自分のペースで過ごしたい。

ようやくそれを叶えることが出来て、私の心は幸せに満ち溢れていた。

 

今日の私は、散歩の気分だった。

「風が気持ちいい」

桜が完全に散ってしまい、緑が生い茂り始めていた並木道を一人歩いていた。

しばらく歩くと、見覚えのある少女が視界に入ってきた。

「あれ、美月さん……?」

その姿は、いつもの明るい様子とは違い、どこか上の空だった。

「美月さん、こんにちは」

声をかけたのだが、目の前まで来た少女は横を通り過ぎてしまった。

あれ、見間違えたのかな……?

いや、そんなことはないはず。

振り向きざまに、もう一度その名を呼んだ。

「美月さん!」

「えっ……?」

名前を呼ばれた少女は、驚いたように私の方を振り向いた。

少しの間目を丸くしていたが、やがて状況を理解したようだった。

「も、紅葉チャン……」

「どうして少しカタコト何ですか?」

「びっくりしちゃって。まさかこんな所で会うと思わなかったから……」

「たまにこの辺りを散歩することがあるんですよ。気分転換みたいな感じで」

「そうだったんだ。知らなかったよ」

やっぱり、今日の彼女はどこか変だった。

私の話も、右から左へとすり抜けているような気がした。

「……何かあったんですか?ちょっと元気なくないですか?」

「まあ、ちょっとね」

「無理にとは言いませんが、私でよければお話聞きますよ」

「おー!さすが紅葉ちゃん!本当に優しいね〜!」

そう言って、私の頭に手を乗せて優しく撫でてくれた。

「ち、ちょっと、こんな道端でやめてくださいよ……誰かに見られたらどうするんですか?」

「誰かって、充君とか?」

「なっ……どうして今秋山君が出てくるんですか!?」

「もうー、照れちゃって可愛いな〜!」

「照れてなんかいませんっ!」

……この感じなら大丈夫なのかな?

私のことを弄ぶ様子は、いつもと変わりない美月さんだった。

ただ、その瞳の奥はいつもと違って、あまり笑っていない気がした。

「もう、良いですよね!……それより本当に大丈夫なんですか……?無理しなくても良いんですよ」

「……ごめん、ありがとう」

「いえ、私こそ引き止めてしまってごめんなさい。もしかして、一人でいたい気分でしたか?」

「うーん。半分半分、かな」

「……そうですか。それなら私が一緒にいますよ。こんな所にいるのもなんですし、どこか行きましょう」

「おっ!これは女子会だね!?」

「まあ、そういうことにしときましょう。美月さんどこか行きたいところありますか?」

「私は特にはないよ。紅葉ちゃんは?」

「私も散歩しに来ただけなので特にはないですけど。……でも、一つ良い場所があります。そこに行きますか?」

「良い場所!?行く行く!」

「あんまり期待しないでくださいよ……?そんなにすごい場所ではないですから」

そう念を押してから、私は行き慣れた“秘密の場所”へ案内した。

 

「着きましたよ、ここです」

「ここは……?」

「ここは神社です。と言っても、今はもう誰もいないんですけどね」

「こんな場所があったなんて知らなかったよー」

「なんて言っても私の秘密の場所ですからね!こっちに来てください」

私は、更に奥にある“とっておきの場所”に案内した。

 

「わぁ〜!すごい綺麗〜!」

「ここからなら、私たちの街が見渡せるんです。この神社は山の上にありますからね」

「すごい登ってくと思ったら、こういう事だったんだね!」

「そういうことです。とりあえずここの椅子に座ってください」

「了解!」

美月さんを私がいつも座ってる場所に座らせ、私はその隣にゆっくりと腰をかけた。

「ここで街を眺めていると落ち着きませんか……?嫌なこととか、一時的にですけど忘れられるんです」

「うん、落ち着く。風の音とか、木の音とかすごく心地いい」

「私は、何かあった時はよくこうしてここに来てました。それで一度リセットして、また頑張ろうって気持ちを入れ直すんです。……美月さんにもそんな気持ちになってくれれば良いなって思ったので、招待しました」

「そうだったんだね……いや〜、なんか乙女の秘密を垣間見てしまった気分かも!」

「……そうやってまた変なこと言わないでくださいよ。美月さんはたまに親父くさいです」

「ごめんごめん、つい調子に乗っちゃって……」

そんな空元気のような姿を見かねてしまい、私は気付けば言葉をかけていた。

「……さっきも言いましたけど、少なくとも私の前では無理しなくても良いんですよ?そうやって茶化す時の美月さんは、大抵何かある時ですから」

「あはは……バレちゃってたか……」

「人を見るのは自信があるんです。バドミントンでも大切なことでしたから」

「そっかぁ。紅葉ちゃんに隠しごとは通用しないなぁ……」

「いえ、そんなつもりは……話したくなければ大丈夫ですから」

「ううん……せっかくだし話そうかな。その方が気持ち楽になる気がする」

そう言うと、美月さんはここに至るまでの経緯を事細かく説明してくれた。

少し泣きそうになりつつも、最後まで話してくれた。

その話を聞いていると、本当にお母さんの事を大切にしてるんだと感じた。

それだけじゃなく、私たちや自分のことも。

身の回りにいる人を大切にし過ぎてしまうが故に悩んでしまう。

そんな人なんだと思った。

「美月さんは、優しい人ですね」

「それを言うなら紅葉ちゃんがでしょ」

「私はそんなことないと思いますよ?」

「優しいよ。私が変なこと言っても許してくれるし、今だってこうやって話を聞いてくれてるし」

「それはその、友達ですから。友達が困ってたら助けてあげたい。それだけですよ」

自分で言っててすごく恥ずかしくなってきてしまった。

「……ありがとう」

てっきりまたからかわれると思ったけど、そんなことはなかったみたい。

それどころか、また泣きそうになっていた。

「泣かないでください。大丈夫ですから……私たちが付いてます」

彼女は、うんうんと言って頷くだけだった。

隣で泣きかけている少女の背中をさすりながら、私は一人語り続けた。

「人って難しい生き物なんですよ。自分と他人は違う、そう分かっていても上手くいかない時もあるんです。人には感情があるから……自分が良いと思ってることが相手には余計な迷惑って思われてるかもしれない。その逆だってあり得ます。でも、そう思われたとしても、相手を思いやる気持ちこそが大切なんだと思います。美月さんには、そんな風に人を思いやる気持ちがある。私はそんな美月さんが好きですよ?」

隣の少女は、肩を軽く上下させながらも話を聞いてくれたみたいだった。

しばらくして少し落ち着いたのか、彼女は突然話始めた。

「……私も、紅葉ちゃんが好き。大人しそうに見えて強くて、包容力があって、すごく尊敬してる」

「あ、ありがとうございます……」

涙目でそんなことを言われると、ものすごくドキドキしてしまう……

そんな気持ちを悟られないようにするため、私は街並みに目を背けた。

「あっ、今照れてるでしょ?」

「て、照れてませんよ……?」

「嘘だね、紅葉ちゃんって意外と顔とか行動に出るからすぐ分かるよ。紅葉ちゃんが私のこと分かるように、私だって紅葉ちゃんのこと分かるんだからね」

そう言って、こちらをツンと突いてきた。

なんだか、すごくそわそわした気持ちになった。

心地良いような悪いような不思議な感覚。

これこそ誰かに見られたら困る。

でも、その心配は無用だった。

なんて言っても、ここは“私たちの秘密の場所”なのだから。

 

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続き→夏休みに向けて

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