秋トリオのお買い物

「到着ー!久しぶりに来たねー」

「こないだ来たばかりでしょ」

まだ着いたばかりなのに、こんなにテンション高いとは先が思いやられる。

「お二人はここに来たことがあるんですよね?」

「あるよ。と言っても二回目だけどね」

「篠原さんはよく来るんですか?」

「いや、私も二回目だよー。あと私のことは美月って呼んでくれて大丈夫だよ」

「じ、じゃあ、美月さん……?」

「うん!ありがとう!」

僕の時は呼び捨てにしろ。って感じだったのに、紺野さんには強要しないみたいだ。

この扱いの差は何だろう。

「じゃあ、早速行こう!」

 

ショッピングモールに入り五分ほど歩いたところで、レディースの服屋が集まってるエリアが見えてきた。

このまま店内に入るのはさすがに気まずいので、外で待っていることにした。

外から少し様子が見えるけど、どうやら二人きりでも何とかなっているようだった。

この感じなら、紺野さんが打ち解けるのも時間の問題かもしれない。

……美月はこれからどうするつもりなんだろう。

結局、あの帰り道以来全く進展していない。

別に焦っているわけではないし、気長にやっていけば良いのだろうけど、どうにも落ち着かない。

だからと言って僕から促すのも変だ。

もうしばらくは様子を見た方が良いのかもしれない。

「お待たせ〜」

「もういいの?」

「はい。あのお店で欲しいものは揃えられました」

「じゃあ次は君の番だねー」

「やっぱり僕も買わないといけないの?」

「そりゃそうだよー。何のためにここまで来たの?」

二人の付き添いのためだよ。

とは言えなかった。

「まあ、どうせそんなに私服持ってなかったし、ちょうどいいかなぁ」

「じゃあ、私がコーディネートしてあげるよ!」

「え、いいよ。遠慮しときます」

「別にいいじゃん~。紅葉ちゃんの服も私が色々アイディア出したんだよ〜」

コクコクと紺野さんは頷いていた。

美月に強要されたのではないだろうか?

少し心配になった。

「だからと言って、メンズとレディースじゃ勝手が違うでしょ?」

「いいから、早く早くー。行くよー」

「ちょっと待ってってば」

僕は手を掴まれて引っ張られてしまった。

またこのパターンだ。

僕が拒否しようとしても、彼女はそれを遮ってどんどん物事を進めてしまう。

初めて会った日からあんなことを言い出してくるような人だ。

その時にこうなることを見極めるべきだった。

けど、不思議と嫌な気持ちではなかった。

僕は基本的に人と関わらないようにしてる。

自分からはもちろん、他人から接してきても基本的には距離を取ろうとする。

大体はそれで離れていく。

だけど、彼女はそれすらも押し切って僕に関わろうとしてくる。

協力してるっていうのはあるかもしれないけど、最近はそれだけじゃないのかもって思っていた。

きっと、美月は根っからの世話好きなんだ。

誰に対しても世話を焼きたいお姉さんのような人。

僕から見る美月はまさにそれだった。

人と距離を取ろうとする僕にとって、彼女は特別な存在になりつつあった。

 

「んー、なんか違うんだよな〜」

外で待っていた時とは打って変わって、僕の周りで二人はあーでもないこーでもないと言っていた。

紺野さんまでついてきたのは意外だったけど、一人で待ってるのが心細かったらしい。

「秋山君にはもう少し落ち着いた感じの方が似合うと思います」

「確かにそれは分かるんだけどさ〜。やっぱりちょっとチャレンジしたくなるよね~」

「そういうのは自分で試しなよ」

「……確かにそうだよね。ごめん」

珍しく話を聞いてくれた。

「じゃあさ、こっちはどう?」

そう言われて差し出されたのは、白のTシャツに濃い青のジャケット、黒のズボンだった。

これなら比較的落ち着いてるし、遠足以外の時に着るとしても無難に着れるはずだ。

「それでいいよ」

「おっけー。じゃあ、はいどうぞ」

美月に渡された服一式を持って、僕は会計を済ませた。

「お待たせ。この後どうする?」

「私、本屋に行きたいです」

「僕も行きたいかも。ちょうど欲しい本があったんだ」

「じゃあ私は外で待ってようかな〜」

「了解。じゃあ紺野さん、行こう」

「はい」

 

僕が服を買った店から書店まではそこまで距離がなかったようで、三分もしない内に辿り着いた。

店内を周りながら、僕は当たり障りない話題を出してみた。

「紺野さんはどういう本を読むの?」

「そうですね……ミステリー小説だったり恋愛小説でしたり、基本的にそういったものを読んでいます。秋山君は?」

「僕も似たような感じかな。でもたまに漫画とかも読んだりするよ」

「そうなんですね」

「うん」

「……」

「……」

まずい、会話が途切れてしまった。

こうならない為に僕がついてきたはずなのに。

というか、そもそも紺野さんと二人きりになるの初めてだし、僕も喋る方じゃないから何を話せばいいのか分からない……

「……ごめん、紺野さん。僕もあまり話すのが得意じゃなくて、何を話せばいいか分からない。こうならない為についてきたはずなのに……」

「い、いえいえ、大丈夫ですよ。お気持ちだけですごく嬉しいです」

つい正直に喋ってしまった。

「秋山君はお優しいんですね。そこまで気を使っていただいて、ありがとうございます」

「紺野さん、困ってたからさ。そういう人を見ないふりするのはなんかモヤモヤするし」

そんなこと言いつつも、結局は自分のエゴだ。

僕は矛盾している。

自分のせいで誰かを傷付けたくないと思ってる癖に、いざ困ってる人がいると動いてしまう。

それで逆に傷付けてしまうかもしれないのに。

「あの、秋山さん?」

「ん、どうしたの?」

「その、非常に聞きづらいのですが、美月さんとはどうして一緒にいるのですか?お二人は一緒にいることが多いですよね?」

「それは……」

理由を話すべきか?僕は悩んだ。

紺野さんは悪い人じゃない、話しても問題はないと思う。

今日初めて話しただけだけど、少なくともそこに関しては確信が持てた。

けど、本人の許可なしに話すのは良くないと思った。

「それに……秋山君はどちらかと言うと私に近いタイプなんじゃないかなって思いまして。だから、美月さんと一緒にいるのが不思議といいますか……あ、決して美月さんが嫌いとか、そういうのじゃないですよ!」

紺野さんは一人でテンパっていた。

でも的を射てる。

紺野さんはなかなか鋭い。

このままだと、遅かれ早かれバレてしまうだろう。

「ごめん、今はまだ話せない。もし話すとしても、美月に確認してからじゃないと話せないんだ……」

「いえ!私こそ踏み込んだことを聞いてしまってすみませんでした。……何か事情があるということですね?」

「うん、そういうことだね」

そこでまた会話が途切れてしまったが、そんなに重たい空気ではなかった。

お互いに話すことが得意ではない事を理解していたからか、『話さなくちゃ』という緊張感はなく、話したい時に話せばいい。という感じだった。

「目的の物はあった?」

「はい、ありましたよ。秋山君は?」

「僕も買えたよ。じゃあ美月のところに戻ろか」

「そうですね。少し時間がかかっちゃったので、退屈にしてるかもしれないですね」

僕たちは、少し急いで美月の元へ戻った。

 

「美月、お待たーー」

「大丈夫だよ、帰るのそんなに遅くならないから……うん、うん……もうー、心配しすぎだよ〜」

美月は誰かと通話してるようだった。

僕たちが戻ってきたことに気が付いたのか、美月は無言でこちらに手を振った。

「ごめん、待ち合わせしてるから電話切るね」

電話を切った彼女は、気持ちを落ち着けるかのように一度深呼吸をした。

「……もしかして、お母さん?」

「そうだよー、よくわかったね〜」

「まあね……」

美月が他の人の連絡先を知ってるとは思えないし、会話の雰囲気からそれ以外考えられなかった。

「ごめんなさい、お待たせしました」

「大丈夫だよ。私も電話してたからそんなに待ってた感じしなかったから!」

「それなら良かったです」

「時間も結構遅くなってきたし、そろそろ帰る?」

「えー、もう少し回って行こうよー」

「もう十九時だよ?これ以上遅くなると危ないんじゃない?」

「私も帰った方がいいと思います。ただでさえこの辺は街灯や人通りが多くありませんから……夜は危険です」

「んー……」

美月は少しの間悩んでいたが、どうやら納得してくれたようだった。

きっと、さっきの電話のこともあったからかもしれない。

「じゃあ私はこちらですので、今日はありがとうございました。その、楽しかったです」

「こちらこそありがとう!帰り道気をつけてね」

「私の家、ここからそんなに離れてないので大丈夫ですよ。それでは」

「また明日」

 

紺野さんと別れ、僕たちはいつも通り帰り道を歩いた。

「遠足が楽しみだな〜。早く買った服着たい!」

「着るだけなら遠足まで待たなくていいんじゃないの?」

「もう〜分かってないなー、こういうのは大事な用事の時に着るから意味があるんだよ〜」

そういうものだろうか。

「紅葉ちゃんって可愛いよね!」

「突然どうしたの?」

「服選んでる時とかさ、こういうのどう?って聞いたら、『私には似合わないですよ〜』って顔真っ赤にして言うんだよ?それ見ただけで可愛いー!ってなっちゃうよね!」

そのシチュエーションが容易に想像できた。

「なんて言うか、紅葉ちゃんは守ってあげたくなっちゃうよね〜。小動物って感じ!」

確かに、小動物という表現は紺野さんにピッタリだと感じた。

それくらい彼女は繊細な子だ。

紺野さんの話題の流れで、僕もさっきのことについて美月に確認しようと思った。

「あのさ、美月。紺野さんに記憶のこと話すつもりはないかな……?」

「んー、そうだなー……」

少しの間考えていたが、やがてこう言った。

「……紅葉ちゃんにだったら話しても良いかもしれないね」

あんなに周りに話す必要はないって言ってから、少し意外な返答だった。

「そっか。それなら美月から紺野さんに話してあげてくれない?」

「突然どうしたの?あ、もしかして本屋で何かあったんでしょ?」

「何かあったってほどじゃないんだけど、紺野さんに『秋山君はどうして美月さんと一緒にいるのですか?』って聞かれちゃったからさ」

「なるほどね。それで話さないでくれたの?」

「うん。話しても大丈夫だとは思ったけど、僕から言うのも違うと思ったし勝手に話しちゃうのは良くないと思ったから」

「そう……ありがとう」

「お礼を言われるほどのことじゃないって」

「それでも、ありがとう」

「……どういたしまして」

ハイテンションになったり突然真面目になったり、本当に色々な顔がある。

その姿に、僕はどう接したら良いのか時々分からなくなる。

「そういえば、さっきの電話は何かあったの?やけに真剣そうだったけど」

「お母さん心配性でさ……それであんな風に電話をかけてくる時があるんだ。多分、私が記憶を無くしちゃったからだと思うんだけどね」

確かに、記憶がない娘が外出してるってだけで親からしたら不安だろう。

その上、今日みたいに帰る時間が遅くなったら尚更だ。

「これからは、あんまり遅くならないようにしようか」

「大丈夫だよ。お母さん、私の声を聞けば落ち着いてくれるから。でも、その方がいいかもしれないね」

そうこう話している内に、いつもの別れ道に着いた。

「じゃあまた明日ね」

「うん、また明日。あっ、私が選んであげた服ちゃんと大切にするんだぞー!」

「はいはい」

「もう、本当に大丈夫なのかなー?」

彼女の背中はどんどんと小さくなっていき、それと比例するように美月の独り言は小さくなっていった。

僕も一人帰宅することにした。

 

今日はなんだか疲れた。

肉体的にというよりは、気疲れみたいなものだろう。

思えば今日だけで色々なことがあった。

紺野さんと出会い、その上買い物にまで行った。

生活に刺激が少ない僕にとっては、たったそれだけのことでも大きくエネルギーを消費する出来事だった。

でも、やっぱりこういうのも悪くないかも。

改めてそう感じていた。

紺野さんはタイプが近いだろうし、きっとお互い程よい距離感でいられる気がする。

美月ともきっと仲良くなれるだろう。

僕は、これから先の未来に少しだけ期待を膨らませた。

 

前回→遠足に向けて

続き→すれ違い

目次→新しい君と

コメント

タイトルとURLをコピーしました