「二人とも、僕からも話しておきたいことがあるんだけど。いい?」
和気藹々としていた二人に向かって、そう言った。
「そういえば、何か話したいって言ってたよね」
「うん。さっきの話の流れで僕も話そうかなって」
「美月さんの記憶に関する話ってことですね?」
「そうだね。まあ、そこまで重要じゃないんだけど……」
「もったいぶらずに教えてよ」
「……僕たちの担任の先生いるでしょ?先生は美月の記憶のことを知ってたんだ」
「そうなの!?私、先生に話してないのに……」
「きっと親が話したのでしょう。それなら先生が知っていたとしても何ら不思議ではありません」
「僕もそうだと思う。それで、ここから先が大切なんだけど……」
僕はそこで一泊置いてから話した。
「先生は、美月のお母さんに協力してるっぽい」
「えっ……どういうこと?」
「詳しくは分からないけど、話を聞いた感じだと先生が美月の様子を見ていることは間違いない」
「それは、何かおかしいんですか?」
「おかしくはないんだけど……なんていうか、意図が分からなくない?」
「意図……ですか」
「そう。様子を見続けるのに何の意味があるのかって思ってさ」
「それは、単に私たちの担任だからというわけではないですか?」
「もちろんそれもあると思うけど。その指示を出してるのは美月のお母さんなんだよ」
「お母さんは私が記憶を取り戻すことをあんまり良しとしてないからね」
「でもそれだったら尚更おかしくない?」
「……何が?」
「だって、それなら僕が記憶のことを知ってるって先生が気付いた段階で僕たちを切り離そうとするはずじゃない?」
「それは確かにそうかも」
「でも先生はそうしなかった。あくまで『傍観者』に徹してるって感じだった。そしてさっきも言ったように、その指示を出してるのは美月のお母さんなんだ」
「うーん。確かによく分かりませんね」
「色々と辻褄が合わないでしょ?だから意図が分からないって言ったんだよ」
「でも、先生は私たちが美月さんの手伝いをしてるってことは知らないんですよね?それなら野放しにしておくのも納得出来るかもしれませんよ?」
「それは知らないはずだけど、僕が先生の立場だとしたら危険要素は潰すと思う。そう考えても、美月のお母さんは記憶を取り戻させたくない訳じゃないんじゃないかな」
「じゃあ、どうしてお母さんはあんな態度を取るんだろう……?」
「そこまでは僕にも分からない。でも何か理由があるんだと思う」
僕の言葉を聞いて、美月はうんうんと唸っていた。
「美月のお母さんに直接聞けたら一番良いんだけど、僕たちが独断で動いてる以上、下手な行動は出来ない」
「あくまで美月さんのお母さんや、先生にはバレないように動くということですね?」
「そうだね。記憶を取り戻すことに抵抗が無いなら堂々と動けるけど、本当の所は分からないからね。それが分かるまではお互い様子見って感じかな」
「なるほど。これは一筋縄ではいきそうにありませんね……」
「ただ、先生は良くも悪くも美月のお母さんの指示に従うはずだから、そこから間接的に意図が汲み取れるかもしれない」
そう話すと、美月はじーっと僕を見てきた。
「……なに?」
「充君って、すごい頭が切れるんだね」
「……いや、そんなことはないと思うけど」
「そんなことありますよ。まるで探偵みたいでしたよ」
紺野さんにまで言われてしまった。
頭が切れるというのとは少し違う。
そんな風に考えられるのは、僕が同じ『傍観者』だからだ。
“あの日”以来、僕は物事を一歩引いた目線で見るようになった。
同じ種族だからこそなんとなく感じてしまう。
ただそれだけのことだ。
「……とにかく、先生や美月のお母さんの意図が分かるまではあまり目立った行動をしないようにね」
「でも、このままずっと分からなかったらどうするんですか?様子見ってことは、何か変化が無い限りはずっとそのままかもしれませんよ?」
痛い所を突いてきた。
やっぱり紺野さんは鋭いな。
「その時は、事情を正直に話そうと思う。リスクは高いかもしれないけど、一度話してしまえばいくらでも情報は入手できると思うから」
「なるほど……分かりました」
「でも、これは最終手段だからね。出来るだけ事が大きくならないように穏便に動きたいかな、美月も分かった?」
「了解です!」
そう言って、敬礼のポーズを取った。
「とりあえずこの話はここまでね。……そろそろ動く?」
「そうですね。まだ集合時間までは時間ありますけど、どこか行きたいところありますか?」
「僕は特にないけど、美月は?」
「私も特にはないかな〜」
「じゃあ……このままここにいる?」
「無理してどこかに行く必要もないですし、それでもいいかもしれませんね」
「私もそれでいいよ〜」
結局、僕たち三人は集合時間まで湖周辺でのんびりと過ごした。
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続き→帰りのバスにて
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